rockinonman’s diary

邦ロックを中心にカルチャーを多角的に分析し発信しています。1人でも多くの方に面白いと思ってもらえるように頑張ります!

君島大空が『午後の反射光』でみせる景色

  夜中にふと孤独感が襲ってきて眠れなくなる瞬間、周りにたくさんの人がいるのになぜかひとりでいるように感じる瞬間、いわば世界から切り離されているようなときに君島大空の『午後の反射光』はすぐ隣で鳴っている。幾重にも重なった音と年齢も性別もぼかされた中性的な歌声。君島大空が描く世界観は輪郭がぼやけた抽象的な世界でありながら、我々の心の最深部を優しく温かく照らしてくれる。

f:id:rockinonman:20190423195345j:image

  君島大空、本名だそうだ。この名前と中性的な歌声から最初は女性だと思っていた。これまでたくさんのアーティストのサポートギターを務め、アイドルグループsora tob sakanaへの楽曲提供など手掛けてきたアーティストである。そんなキャリアを持つ彼がギタリスト/作曲家としてではなく、君島大空という人間の表現のために作ったという『午後の反射光』を聴いて驚かされた。彼の表現は絵画のようであり、一枚の絵を前にして「なるほど、彼には世界がこんな風に見えているのか。」と感心するのと同じだった。

 

   不法侵入を意味する楽曲タイトル〝interlope″とは裏腹に、ギターとピアノ、機械音で構成されたとても心地いいinstrumentalから幕が開ける。続く〝瓶底の夏″はとても爽やかな楽曲で、暑い夏の日に縁側でサイダーでも飲みながら聴きたい。歪んだギターの向こう側から「僕の所為にしてよ! 乱射した言葉は虚空を舞う 誰の所為にしたい?」という反射した光の中で捻くれた叫びが聞こえる〝遠視のコントラルト″。そして日本的で情緒的なイントロから始まる表題曲の〝午後の反射光″である。7分以上もあるこの曲には暖かい日差しのイメージやキラキラ輝く光のイメージなどたくさんの景色がパッチワークの様に切り貼りされている。ギターのアルペジオがとにかく美しいスローバラード〝夜を抜けて″が最後を飾る。霞みがかった朝に日が差すようなとても暖かで静かな気持ちになる。

f:id:rockinonman:20190423195518j:image

   曲を作るにあたって彼は、ギタリストでもなく作曲家でもなく君島大空というひとりの人間には何が残るかを問い続けた。自分の音楽とは何かを。そんな自己と向き合ったからこそ生まれた音に世界を断片的にとらえた言葉をのせて描いている。曲の世界は美しい景色なのか、残酷な現実なのか、単なる「いいね」で得られるわかり易い共感を彼は求めていない。だからこそ誰もが持っている孤独感に深いところで共鳴するのである。

   

   君島大空のTwitterアカウントのプロフィールには「通底器」という言葉がある。通底器とは底の部分でつながっている装置のことで、人間同士の無意識的なつながりの象徴も表す。これはTwitter自体のことを指しているのかもしれないが、彼の音楽のことを表しているように思える。世界から切り離されているようで実は繋がっていると彼の音楽が気づかせてくれる。