rockinonman’s diary

邦ロックを中心にカルチャーを多角的に分析し発信しています。1人でも多くの方に面白いと思ってもらえるように頑張ります!

ロックの理想が結実した一枚『Sleepless in Brooklyn』

ついにツアーファイナル!「Sleepless in Saitama」

 

[ALEXANDROS]が3/2(土)宮崎県 ゼビオアリーナ仙台公演を皮切りに全国7都市9公演周ってきた「Sleepless in Japan Tour」アリーナ編も残すところツアーファイナルのさいたまスーパーアリーナを残すところとなった。

f:id:rockinonman:20190616115033j:image

 

このツアーは2018年11月21日にリリースした『Sleepless in Brooklyn』を携え、約2年ぶりに行われているものである。このアルバムを聴いた瞬間にスケール感のでかさからスタジアム規模で早く聴きたいと思ったが、ライブハウスからアリーナへと段階を踏むツアーを展開することでアルバムの普遍性を示した。

 

ツアー中にも映画『ゴジラ キング・オブ・モンスターズ』の日本版主題歌への「Pray」起用や、アクエリアスのCMへの楽曲書下ろし(タイトルは「月色ホライズン」に決定)など精力的に活動してきたし、さらには10月にはNHKが毎年主宰している18祭(フェス)が控えている。(その一方でメンバーのケガなど不幸もあったが・・・)


[ALEXANDROS] - Pray (MV)

 

 

6月16日のツアーファイナルに参加する予定なので、改めて名盤『Sleepless in Brooklyn』の全曲レビューをしてみようと思う。後日ライブレポートも載せるつもりなのでそちらも読んでいただけたらと思う。

 

 

全曲レビュー

f:id:rockinonman:20190616115359j:image

01・「LAST MINUTE」

 

アルバムの顔ともなる一曲目は「LAST MINUTE」である。見事に裏切られた。出だしのシンセやピアノの優しいコード、打ち込み音ときれいに流れる美しいメロディ、こんなにも静かで美しい出だしは想定していなかった。アルバムタイトルにもあるように海外レコーディングが今作の売りなのだが、この曲はそれこそ音は海外でアップデートされているが否応なしに「日本」を感じさせられる。歌詞が日本語であるのも一因だがサビのメロディがすごい日本的だ。海外の空気や文化に触れ刺激をうけながらも、彼らの芯にはブレない「日本」が存在した。

 

02・「アルペジオ 

PlayStation®4用ソフト『JUDGE EYES:死神の遺言』主題歌

 

アルバムの発売に先駆けMVが公開されたのだが、当時誰しもが驚いたことだろう・・・「キムタク!!!???」と。MVの演奏シーンを撮影するカメラマンとして木村拓哉が出演しているのだ。いやいや、画面が豪華すぎる!

何かと楽曲以外のインパクトが凄すぎるのだが、改めて曲をしっかりと聴きこむとバンドとしての進化が凄い。川上洋平の高音ボーカルやバンドのキメとなる演奏などこれまでのドロスを残しつつも、細かなアレンジが楽曲を更にいいものにしている。

 


[ALEXANDROS] - アルペジオ (MV)

 

03・「Mosquito Bite」

 映画「BLEACH」主題歌

 

冒頭の衝動的で重厚感のあるギターリフがズンズンと心に響き、その音が全身に伝わり血が沸き上がるような感覚を味わった。彼らが何度も口にしてきた「世界一になる」(グラストンベリー・フェスティバルのヘッドライナーを務める)という夢への熱がこの楽曲に反映されているように思える。近年のライブでよくみられる観客に声を上げさせるものはこの楽曲にも生かされている。スタジアム規模のライブを経験しているからこそ、オーディエンスと一体感を味わう楽曲の必要性を感じていたのだろうが

 


[ALEXANDROS] - Mosquito Bite (MV)

 

04・「I Don’t Believe In You」

 『MINI 3 DOOR / 5 DOOR』 CMソング

 

この楽曲からはとにかく疾走感が感じられる。それこそサビは[ALEXANDROS]らしくメロディアスな展開なのだが、そこにいたるまでがよく思いつくなと感心してしまうほどアイデアが詰め込まれている。電子音がいいアクセントになっており、未来を感じる音あたりに彼らの今後が楽しみになる。リリックビデオがとてもスタイリッシュでかっこいい。

 


[Alexandros] - I Don't Believe In You (Lyric Video)

 

05・「ハナウタ」 

東京メトロ『Find my Tokyo.』CMソング

 

作詞を詩人の最果タヒが、編曲に音楽プロデューサーの小林武史が参加している。とても澄んだ音のアルペジオから始まる、とても綺麗で美しい楽曲だ。途中からオーケストラも入ってきて、楽曲のスケールがどんどん大きくなる。こういう楽曲の編曲に関わると小林武史は本当に凄いなと関心してしまう。[ALEXANDROS]の良いところを全く殺さずに、素晴らしい楽曲に仕上げている。作詞・作曲ともにとてもいい味を出しているし、編曲によりいい調和を保っている。

 

06・「PARTY IS OVER」

 

タイトルの「PARTY」という名前通りのダンスビートにシンセの音を組み合わせたとても挑戦的で実験的な曲だ。パッという音、カシャンという音、犬の鳴き声などそれ以外にも様々な音が曲中に散りばめられており、彼らの曲作りに対する遊び心が見え隠れする。この曲から感じられるのはどんなジャンルも取り入れる貪欲さ、そして何よりもインプットしたものを彼らの音楽としてアウトプットする凄みだ。

 

07・「MILK」

映画「BLEACH」挿入歌

 

聴いて思うのは「え、これは洋楽???」という驚き。「BLEACH」の世界観に寄せたからこその洋楽感なのだろうが、もともと彼らの音楽はかなり洋楽に影響を受けている。これほどまでの音を日本人が鳴らしているのだから驚きだ。とにかくかっこいい。レビューをすると言っておきながらかっこいいという感想しかでてこない。だが、[ALEXANDROS]の音楽はそれが正しいと思う。彼らがかっこいいと思うものを音にしているのだからそりゃかっこいいに決まってる。

 

08・「spit!」


[ALEXANDROS]というバンドには音の限界がないのかと思わされる一曲。前作・前々作でも同系統の楽曲はあったけども、彼らが積んできたキャリアと海外での影響が音をより洗練している。一見シンプルめな演奏だが、バンド全員でアンサンブルというよりはユニゾンで一気に攻め込んでくる感じがとてもいい。アルバムがただのシングルの寄せ集めではないということを知らしめてくれる。

 

09・「KABUTO


かなりデジタル要素強めなギターサウンドが印象的で、イントロに入っている外国人の台詞がまたまた洋楽的。ギターの音が引いたと思ったらピアノとパーカッション、噛み合わなそうだが楽曲の根幹にはしっかり寄り添っている。一見するとハチャメチャな感じがしつつも、意外と根はまじめなタイプの曲だ。わかりやすい普通の構造ではないのにそれがはっきりとロックだと分かってしまうのは本当にすごい。ついつい何度も聴きたくなる中毒性ロックだ。

 


[ALEXANDROS] - KABUTO (MV)

 

10・「FISH TACOS PARTY」

 

イントロを聴いた瞬間に「何この音は!?」という驚きと、その一方で安心感のある[ALEXANDROS]の爽やかで凄くオリジナルな部分が前面に出ている楽曲な気がする。
川上洋平のボーカルものびのびとしていてとても気持ち良さそうだし、凄くシンプルにバンド・サウンドだなと思った。常に新しいことに挑戦しつつも彼ららしさを残せているのは、厳しい環境に自らを置き真剣に向き合っているからこそだと思う。自分たちが鳴らすべき音が何なのかがはっきりとしているから、色んなアレンジをしてもアルバム一枚にはまとまりがあるのだ。

 

11・「Your Song」

PlayStation®4用ソフト『JUDGE EYES:死神の遺言』挿入歌

 

アコギの音が耳を幸せにするとても気持ちの良い曲である。この曲の主人公は間違いなく歌とメロディである。サビの盛り上がりを聴いてると、ライブでシンガロングが起こるところを容易に想像させる。間奏のギターソロも素晴らしい音色とメロディで堪らなく、ぎゅっと心を掴まれる感じがする。「Your Song」とは「君へ捧げる歌」や「君を歌った曲」という解釈ではなく、この曲の一人称の僕は歌そのものだった。「I’ll be by your side/君のそばで鳴るよ/世界中の誰もが敵でも/僕は味方さ/I’ll be by your side because I am your song」という歌詞に胸を打たれる。本当に素晴らしい楽曲である。

 

12・「SNOW SOUND」 

JR東日本 2016-2017 『JR SKISKI』CMソング


『JR SKISKI』といえば名だたる名曲たちがCMソングとして起用されてきた。2016年の冬はこの楽曲だった言えるのではないだろうか。今の時代の冬を象徴する楽曲になったし、これから先も毎年冬になると至るところで耳にするのではないだろうかと思っている。このCMタイアップでは、圧倒的に「冬」や「雪」をリスナーに想起させなければならない。ベルの音を使ったり、歌詞にそれっぽい言葉をふんだんに盛り込めば簡単かもしれないが[ALEXANDROS]はそうしない。深いリヴァーブが全体的に効いたアレンジや懐かしさを感じるシンセのフレーズなど深い音像で冬だなと思わせている。圧倒的に音楽力がすごい。

 


[Alexandros] - SNOW SOUND (MV)

 

13・「明日、また」 

2017『クロレッツ』タイアップソング


軽快なギターサウンドとシンセに導かれて曲の幕が開き、四つ打ちのリズムとその上で気持ち良さそうに歌う川上洋平のボーカルが印象的に響く。サビで一気に盛り上がるが、世界観は一貫していてとても楽曲に入り込みやすい。途中からドラムがリズムで遊びだしたり、左右からシンセが飛んできたり、いろいろと賑やかだけど彼ららしくて好感度の高い印象。コーラスも印象的でライブではシンガロングが起こりそうだと思った。ラストサビで綺麗に戻ってきて、気持ちよく楽曲が終わってゆく。それと同時にアルバムもスッと幕を閉じる。明日へ向かう強い活力が生まれる、そんな最後に相応しい楽曲。


[Alexandros] - 明日、また (MV)

 

まとめ

 

タイトルで「ロックの理想が結実した一枚」なんて仰々しく銘打ったが、[ALEXANDROS]は、[ALEXANDROS]の音を今いる地点でしっかりと鳴らしているだけで何も変わってはいないのだ。

 

バンドが常に進化するためには、あらゆるものと触れ合っていろんなことを吸収しなければならない。それはバンドを更に先へ進める大きな一歩になることもあれば、「自分たちなんてこんなもんだったのか」と打ちひしがれることもあるだろう。今回の海外レコーディングはそんな貴重な経験の繰り返しだったことだろう。

 

「俺たち海外で曲作ったぜ!すごいだろ!聴いてくれよ!」とはならないのは、あくまでもそこは到達点にすぎないからだ。彼らには明確な目標がある。

 

「世界一のバンドになる」

 

世界一を目指すのであればブルックリンでの眠れない日々は夢への過程に過ぎないだろう。『Sleepless in Brooklyn』は「ここまで来ました」の一枚ではなく、「これから先まだまだだけど、今いるここでかっこいい音を届けるね」の一枚なのでとても意欲的だ。だから聴いていていちいち驚かされるし、その一曲一曲がまぎれもなくかっこいい。

 

ツアーファイナルのさいたまスーパーアリーナはどんどん先へ進んでいく[ALEXANDROS]の通過点の一つ。

はたしてどんな景色を見せてくれるのだろうか。

いや、どんな景色を一緒に作らせてくれるのかとても楽しみである。

 

 

「Sleepless in Saitama」

きっと眠れない夜になるだろう。